最新労働裁判例紹介C

テーマ:労働基準法第41条第2号前段の「管理監督者」

1.テーマ解説   
使用者が、労働者を、法定の時間を超えて、又は休日に労働させたり、若しくは深夜に労働させたりした場合には、通常の賃金に加えて、時間外労働25%、深夜労働25%、休日労働35%の率で計算した割増賃金を支払わなくてはなりません(労働基準法第37条)。   
同法41条には、上記時間外割増賃金等の規定の適用から除外される労働者が列挙されていますが、その一つとして「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」すなわち「管理監督者」が挙げられています(同条第2号前段)。管理監督者については、労働基準法には明確な定義がなく、「管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、経営者と一体的な立場にあるものをいい、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきと解される」との行政通達(昭和22年9月13日発基第17号)があるだけです。
裁判例の積み重ねにより、より具体的には、
@職務内容が、少なくともある部門全体の統括的な立場にあること、
A部下に対する労務管理上の決定権等につき、一定の裁量権を有しており、部下に対する人事考課、機密事項に接していること、
B管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当が支給されないことを十分に補っていること、
C自己の出退勤について、自ら決定しうる権限があること、という要件がほぼ確立しています。   
使用者から管理職手当を支給されているいわゆる「管理職」がそのまま上記「管理監督者」に該当するわけではないことは明らかですが、個々の事案で当該労働者が「管理監督者」に該当するかどうかについては、その都度、当該労働者の職務内容、権限、待遇、出退勤管理の状況を上記4要件に当てはめて判断していくしかありません。   
昨年の日本マクドナルド事件の判決(東京地裁平成21年1月28日判決、その後高裁で和解)により、「名ばかり管理職」等、時間外手当を支給されない労働者の問題が社会的に大きく取り上げられましたが、管理監督者は労働法の分野では古くて新しい重要テーマです。   そこで、労働基準法第41条2号にいう管理監督者に該当するかどうかが争われた最新の判例3件をご紹介します。

2.判例紹介

(1)東和システム事件(東京地裁平成21年3月9日判決)…プロジェクトリーダー   

@事案の概要  
被告はソフトウェア開発、受託計算等を業とする会社であり、原告らはSE業務を担当する労働者で「課長代理」の職位にあった。被告会社は、後に就業規則を改定し、「課長代理」という職位を管理職である「課長」と非管理職の「副長」に分けたが、原告らについては3年間「課長代理」のままで処遇し、最終的には非管理職である「課長補佐」に任命した。  
原告らが、「課長代理」であった間の時間外割増賃金を請求したのに対し、被告会社は、管理監督者は名称にとらわれずに実態に即して判断すべきであり、システム開発等のプロジェクトにおいて、課長代理以上は担当のプロジェクトのリーダーとなり、担当プロジェクトの具体的な内容・進め方について広範な裁量権を有しており、職務手当のほかに月額14万円の特例手当が支給されていた、被告会社の出退勤規制を受けていなかったなどとして、原告らは「プロジェクトリーダー」であるから管理監督者にあたると主張した。

A裁判所の判断  
原告らは、プロジェクトチーム内ではリーダーとして存在しているが、プロジェクトチームの構成員、下請会社及びプロジェクトのスケジュールを決定する権限もない状況下でこの程度の部門を統括することでは、要件@にいう部門全体の統括的立場にあるということはできない、原告らが、その部下であるチーム構成員の人事考課をしたり、昇給を決定したり、処分や解雇を含めた待遇の決定に関する権限を有していたとは認められず、原告らが経営者と一体的な立場にあるものということは到底できないとして、原告らは管理監督者にあたらないと判断した。

(2)アイマージ事件(大阪地裁平成20年11月14日判決)…コピーサービス店の店長   

@事案の概要    
被告はカラーコピーサービス業務及びコンピュータのプリントアウトサービス等を業とする会社であり、原告は被告が経営する店舗のうちの1つの「店長」であった。    
原告が時間外割増賃金を請求したのに対し、被告会社は、@原告は店長として店舗を運営していた、A原告は自由に出退勤しており、タイムカードもほとんど打刻していなかった、B原告には営業手当として5万円が支給されていたが、原告が営業に出ることはなかったから、この営業手当は店長としての手当であった、C原告は、入出金の管理、従業員の採用、従業員の給料の決定を行っていたなどとして、原告が管理監督者にあたると主張した。   

A裁判所の判断    
@被告は原告が勤務していた建物の1階部分と3階部分で営業していたが、原告は「店長」とはいっても、その権限は店舗の1階部分に限定されており、店長である以上に経営者と一体的な立場にあったとまでは認められない、A原告の合計26万円の月額賃金は、他の従業員に比べると好待遇であるとはいえ、店長であることを超えて管理監督者としての地位にあることを裏付ける者としては不十分である、B原告がタイムカードの打刻を懈怠することが少なくなかったのは事実であるが、被告所定の勤務時間はきちんと就労しており、時間管理がなされていなかったとは認められない、C原告が店舗の経理業務を担当していたことは事実であるが、従業員の採用や従業員の給料の決定を行っていたことを認定するに足りる証拠はないとして、原告が管理監督者の地位にあったと認めることはできないとした。

(3)プレゼンス事件(東京地裁平成21年2月9日判決)…料理長   

@事案の概要    
被告は飲食店の経営等を業とする会社であり、原告は「料理長」の肩書きで被告が経営するイタリア料理店「F」で勤務していた。    
原告が時間外割増賃金を請求したのに対し、被告会社は、@原告は管理監督者として振る舞っており、部下の給与等の待遇について被告会社に進言し、それを実現させた、A被告は原告に対し、出社・退勤時間について指示命令をしておらず、原告には出退勤の自由があった、B原告は食材の仕入をすべて任されており、メニューも勝手に決定し、雑誌の取材を受ける際も被告には無断であった、C原告の基本給36万円は、本件店舗の月商の約4.5%に相当し、管理監督者として十分な待遇を受けているなどとして、原告が管理監督者にあたると主張した。   

A裁判所の判断    
@原告には料理長という肩書きが与えられ、厨房スタッフ3名程度の最上位にいたが、原告が部下の採用権限を有していたり、人事考課をしていたなどの事実は認められない、A本件店舗のメニューは経営者の了承を得たものであり、広範な裁量権があったとは認められない、B店舗の営業時間が決まっていることから、出退勤が自由に決められるわけではない、C月額36万円の給与は料理人の世界では厚遇という証言もあるが、原告には賞与も歩合給も役職手当もないのであるから、この程度では経営者と一体的な立場にあるとは到底いえないとして、管理監督者にはあたらないとした。

以 上
2009/8/7

             


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