最新労働裁判例紹介D

テーマ:セクハラ発言、暴言に対する慰謝料等の請求      
(東京高等裁判所平成20年9月10日判決)

1.事件の概要
  
被控訴人Y会社が経営する菓子店で契約社員として働いていたX(控訴人、事件当時19歳から20歳の女性)が、店長であったC(被控訴人補助参加人)から反復継続して受けたセクシュアルハラスメントや暴言、暴行等によって控訴人の性的自由、性的自己決定権等の人格権及び良好な職場環境で働く利益を害されたとして、会社に対し、民法715条に基づいて、慰謝料及び休業損害等の支払を請求した。   
原審の東京地裁は、Xの主張する事実の一部を認めたものの、それらは許容される限度を超えた違法な言動であったとは認められないとして、Xの主張を棄却した。   
控訴審では、Xの主張する事実のうち、CのXに対する以下の言動を不法行為として認定し、Y会社に対し、慰謝料の外、休業による逸失利益として給与手取額の6ヶ月分の支払を命じた。   
@「頭がおかしいんじゃないの」   
A「昨夜遊びすぎたんじゃないの」   
B「僕がいないときは君が店長なんだよ」と大声で注意した。   
C「僕はエイズ検査を受けたことがあるから、Xさんもエイズ検査を受けた方がいいんじゃないか」   
D「秋葉原で働いた方がいい」   
E「処女に見えるけど処女じゃないでしょう」   
F「V(菓子店が入っているショッピングセンター)にいる男の人と何人やったんだ」「何かあったんじゃない?キスされたでしょ?」「俺にはわかる、知ってる」と畳み掛けて言った。   
GシャドウボクシングのまねごとをXに向かってした。   
H「後で話があるからな」と語気強く叱責した。

2.解説   

Xは高校を卒業後、平成17年4月にY会社に採用され、Cは同年5月16日ころからXのいる店舗の店長となり、Xと同じ職場で働くようになりました。上記の言動のうち、@、Aは日常的に、E、F、Gは、平成18年1月2日の終業後、店の従業員全員で居酒屋やカラオケ店で飲食した機会になされており、Hは同年7月13日のことで、その後Xは出勤を拒むようになりました。   
原審は、Xの勤務態度にも問題があり、CのXに対する注意や叱責には相応な理由や必要性があるとし、また、平成17年12月ころ、Xが自分の友人をアルバイトとして本件店舗に紹介したこと、E、F、Gの事件があった後も本件店舗の行事に積極的に参加し、セクハラ被害を訴えるような態度はなかったことから、Cの一連の言動はXに対する継続したセクハラ行為であったとは認められないとして、Cの言動は、職場において許容される限度を超えた違法な言動であったと認めるには足りないと判断しました。   
しかし、控訴審では、CのXに対する各言動は、全体的に観察すると、Xにおいて自己の性的行動等に対する揶揄または非難と受け止めたこともやむを得ず、Xをいたずらに困惑ないし恐怖させるもので、Cにとって主観的にXに対する指導目的に基づくものがあったとしても、全体として到底正当化しうるものではない、Cの言動は全体として受忍限度を超える違法なものであり、XがCの下で働くことに困惑ないし恐怖を抱いていたことが認められ、そうした困惑ないし恐怖が消失することなく継続する中で、7月13日にCの態度や形相からCに対する恐怖感と嫌悪感を再び強くし、本件店舗での就労意欲を失ったのみならず、再就労に向けて立ち直るまでに相当な時日を要する状態に陥ったものと認められるとして、Cの各言動は、Xに対する不法行為になると判示しました。   
EやFのCの言動は明らかにセクハラであり、不法行為になると考えられます。しかし、E、Fの言動があってから、XがCのHの言動を契機として出勤拒否に至るまでの間、Xから格別の訴えもなく経過していることに鑑みると、慰謝料の支払はともかく、Xが「再就労に向けて立ち直るまでに相当な時日を要する状態に陥ったもの」として休業損害まで認めた点については疑問が残ります。

以 上
2009/9/4

             


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