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テーマ:会社分割手続の瑕疵(労働契約承継法違反)が労働契約承継の効力に及ぼす影響      
(東京高等裁判所平成20年6月26日判決)

1.事件の概要   

被控訴人Y会社が旧商法の会社分割(新設分割)を行った際、分割計画書に設立会社(旧商法373条)に承継される営業に主として従事している労働者として記載されていた労働者(控訴人Xら)が、
@労働者には会社分割による労働契約の承継を拒否する権利がある、
AY会社が行った会社分割は、手続に瑕疵があり違法である、
B本件会社分割は、権利濫用・脱法行為にあたるため、XらとY会社との労働契約が設立会社に承継されるとの部分は無効であるとして、
Y会社に対し、労働系や苦情の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、会社分割手続の違法や権利濫用・脱法行為等が不法行為にあたるとして、慰謝料の支払を求めた。   

原審の横浜地裁は、Xらの請求をすべて棄却したので、Xらが控訴したが、控訴審でもXらの控訴は棄却された。

2.解説   

会社分割にあたり、分割会社は、会社分割に伴う労働契約の承継に関する法律(以下「承継法」)第2条1項の規定による通知をすべき日までに、労働者と協議すべきものと定められており(平成12年法律第90号商法等の一部を改正する法律附則5条1項、以下「改正法附則5条」)、労働省の指針によれば、分割会社は分割計画書等の本店備置日までに、承継営業に従事している労働者に対し、当該分割後当該労働者が勤務することになる会社の概要、当該労働者が承継営業に主として従事する労働者に該当するか否かの考え方等を十分説明し、本人の希望を聴取した上で、当該労働者に係る労働契約の承継の有無、承継するとした場合の当該労働者が従事することになる業務の内容、就業場所その他の就業形態等について協議をするものとされています(以下「5条協議」)。   

また、承継法7条には、分割会社は、その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めるものとすると定められており、上記指針では、分割会社は、そのすべての事業場において、過半数労働組合若しくは労働者の過半数代表者との協議その他これに準ずる方法によって、
@会社分割を行う背景及び理由、
A会社分割後の分割会社及び設立会社等が負担すべき債務の履行の見込み、
B労働者が承継営業に主として従事する労働者に該当するか否かの判別基準、
C承継法第6条の労働協約の承継に関する事項、
D会社分割に当たり、分割会社又は設立会社等と関係労働組合又は労働者との間に生じた労働関係上の問題を解決するための手続などについて、労働者の理解と協力を得るよう努めるものとされています。そして、これらの措置は、遅くとも前記5条協議の開始までにされることが望ましいとされています(以下「7条措置」)。   

本件において、Xらは、Y会社に7条措置違反、5条協議違反があったとして、Xらの設立会社への労働契約の承継は効力を生じず、また、Y会社の会社分割手続における違法行為はXらに対する不法行為に当たると主張したものです。   

裁判所は、まず、7条措置違反があった場合の法的効果について、承継法7条の規定は、分割会社に対し、承継営業に主として従事する労働者の労働契約の承継を含む会社分割について、分割会社の全労働社を対象として、その理解と協力が得られるよう努力する義務を課したものであり、したがって、仮に7条措置が十分に行われなかったとしても、そのことから当然に会社分割の効力に影響を及ぼすものということはできず、仮に影響を及ぼすことがあったとしても、せいぜい5条協議が不十分であることを事実上推定させるにとどまると判示しました。   

そして、本件においては、Y会社の対応は7条措置として不十分であったとは認められないと判断しました。   

一方、5条協議違反があった場合の法的効果については、分割会社が5条協議義務に違反したときは、分割手続の瑕疵となり、特に分割会社が5条協議を全く行わなかった場合又は実質的にこれと同視しうる場合には、分割の無効原因となりうるものと解されるが、その義務違反が一部の労働者との間で生じたに過ぎない場合等にこれを分割無効の原因とするのは相当ではなく、5条協議違反があった場合には、一定の要件の下に、労働契約の承継に異議のある労働者について、分割会社との間で労働契約の承継の効力を争うことができるようにして個別の解決が図られるべきものであるとしました。   

そして、労働者が5条協議違反を主張して労働契約の承継の効果を争うことができるのは、会社分割による権利義務の承継関係の早期確定の要請を考慮してもなお労働者の利益保護を優先させる必要がある場合に限定されるべきとし、会社分割による労働契約の承継に異議のある労働者は、分割会社が、5条協議を全く行わなかった場合もしくは実質的にこれと同視しうる場合、又は、5条協議の態様、内容がこれを義務付けた規定の趣旨を没却するものであり、そのため、当該労働者が会社分割により通常生じると想定される事態がもたらす可能性のある不利益を超える著しい不利益を被ることとなる場合に限って、分割会社との関係で、労働契約の承継の効果を争うことができるものと解するのが相当であると判示しました。   

本件において、Y会社がXらの所属する組合支部との間で行った5条協議の手続は相当であり、協議の内容も労働契約の承継に関して必要かつ十分なものと認められました。   

上記のとおり、Y会社の会社分割手続には、7条措置違反も5条協議違反も認められませんでしたので、Y会社の行為はXらに対する不法行為には当たらず、慰謝料請求も認められませんでした。

以 上
2009/10/2

             


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