最新労働裁判例紹介G

テーマ:年俸制において、新年度の年俸について合意が成立しなかった場合の年俸額
〜日本システム開発研究所事件      
(東京高等裁判所平成20年4月9日判決)

1.事件の概要   

財団法人である研究所(控訴人Y)の研究室長又は研究室員である被控訴人Xらの賃金は年俸制であったが、Y研究所が一方的にXらの賃金を減額支給したと主張し、平成18年1月末日までに支給された賃金と従前の賃金との差額等の支払を求めるとともに、同年2月以降の賃金についても、従前支給額の各支払期日における支払を求めた。   
原審である東京地裁が、年俸者Xらの同意がない以上、減額支給の有効性は認められないとして、前年度実績の給与を取りあえず継続して支給すべきとして、概ねXらの差額賃金請求を認容したので、Y研究所が控訴したが、控訴審においてもXらの請求が認められた。

2.解説   

本判決は、「期間の定めのない雇用契約における年俸制において、使用者と労働者との間で、新年度の賃金額についての合意が成立しない場合は、年俸額決定のための成果・業績評価基準、年俸額決定手続、減額の限界の有無、不服申立手続等が制度化されて就業規則等に明示され、かつ、その内容が公正な場合に限り、使用者に評価決定権があるというべきである。上記要件が満たされていない場合は、労働基準法15条、89条の趣旨に照らし、特別の事情が認められない限り、使用者に一方的な評価決定権はないと解するのが相当である。」とし、Y研究所においては、就業規則及び給与規則に年俸制に関する明文の規定が存在しないこと、年俸額算定方法、減額の限界の有無等が確立し、明示されていたと認めることはできないから、上記要件が満たされておらず、上記特別の事情も認められないから、年俸額についての労働者との合意が成立しない場合において、Y研究所が年俸額の決定権を有するということはできないと判示しました。   
そして、Xらの具体的な年俸額については、平成17年度中にXらとの間で次年度の年俸額について合意が成立しなかった本件においては、前年度の年俸額をもって次年度の年俸額とすることが確定するものと解すべきとしました。   
年俸額の決定権については、会社は、貢献度に応じた人件費の配分をすることによって、社員の勤労意欲の向上を図ることを一番の目的とし、社員の経営参加意識の向上を図ることを副次的な目的として、年功給による賃金制度から年功的要素を排除した賃金制度として年俸制を採用することを決定したのであるから、当然に、社員の同意なくして年俸額を減額することがあり得る制度として年俸制が設計されていると解されるし、社員に対してもその旨の説明がされていることから、会社は社員の同意なくして年俸額を減額することが可能であり、その決定に承服できない社員は、使用者が裁量権を逸脱したものかどうか訴訟で争うことができるにとどまるとした裁判例もあります(中山書店事件 東京地方裁判所平成19年3月26日判決)。   
学説の通説的な見解は、「年俸制の運用において、目標達成度の評価に関する使用者と労働者の意見が対立して折り合いがつかない場合には、使用者の解雇権が自己抑制された長期雇用システムのなかで行われているかぎり、使用者に評価決定権があるものといわざるをえない。」としながら、「ただし、目標の設定とその評価に関する公正な手続と苦情処理の手続が必要である。」として、本件判例と同様の結論を導いています(菅野和夫 「労働法」第八版222頁)。   
また、本判決は、当該年度中に年俸額についての合意が成立しなかった場合に、前年度の年俸額をもって、次年度の年俸額とすることが確定するとしていますが、その根拠は述べられていません。期間の定めのない雇用契約における年俸制において、年俸額に関する従業員と使用者との合意は、1年という期間を設定してされるものであり、次年度の年俸額について両者の協議が整わない場合に、なぜ前年度の合意内容が次年度の年俸額となるのか、説明が足りないように思われます。

以 上
2009/12/4

             


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